文筆家の裏の世界を垣間見ることができます。もしかして角田さんの実際のお話なのかもと思ってしまうくらい、描写はさすが角田さんなのだなぁ、と思いました。
物語はあるひとりの女性の大学時代から話が始まります。学生時代からの仲良しだった男友達の影響で、会社勤めしながら執筆業を始めます。そして最も大きな影響は、写真でしか見たことの無かった母方の祖母の過去の執筆した過去を知ったことでした。祖母の当時の行動や著作を調べていくうちに、好奇心からその世界引き込まれていきます。執筆活動に没頭するあまりに、一緒に暮らしていた彼からも、普段の生活がないがしろにしまったせいで、彼の心が離れていってしまいます。作家になったことから、祖母を嫌う母親とも確執も作ることになりました。人間が生きるとはどういうことなのか。
自分は普段頭で感じたことを、文章化して表現することが難しいけれど、角田さんはよくも的確に、人間の心の感覚を描写できるものだと感嘆してしまいます。こういう作品を純文学というのですよね。久しぶりの純文学でした。
以下、ピックアップしたい場所。
(スランプから抜け出し、執筆作業に没頭できるようになった主人公に対して彼が)
「そういうときってゲームしているより酒飲んでるより、楽しいよな。トリップしたみたいに」
仙太郎はポットに紅茶葉を入れ、マグカップを用意している。
「うん、ほんとうにそう。さっきも九時ぐらいだろうと思ったら十二時だったからびっくりした」
自分もコンピュータプログラムを組んでいるとき、思考が頭の中でビュンビュンまわって、たぶんアルファ波とかベータ波とかがバシバシ出て、気持ちいい感覚になったときを思い出しました。感覚は気持ちはいいし、作成しているプログラムはドンドン書けるし、最高の時間を感じることができたときを懐かしく思ったのでした。文筆作業とプログラミング作業に共通点があるのかもしれません。
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