木曜日, 3月 15, 2012

[3/15 Thu] ▽book「Steve Jobs Ⅰ」

 「スティーブ・ジョブズⅠ」(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳 講談社刊)。「Ⅱ」に続いて「I」を読んだ。

 若かりし頃のジョブズは、天才肌の芸術家なのだと感じる。完璧を求めるアーティスト、ジョブズは、他人と接することが不得意である。これは’よく見られる’芸術家という感じだが、ジョブズの場合、他人がジョブズの魅力に魔法をかけられたように引き寄せてしまう力もあるようだ。
 以前の恋人はジョブズのことを『自己愛性人格障害』であると判断したと書いてある。あまりに気持ちがコロコロかわり、人を持ち上げたら、次は怒鳴り散らして相手をけなしてしまう。一緒に仕事をするにはとても耐えられないと思う。結果そういう人だから、すばらしい’芸術作品’を数多く創り上げることができたわけだ。

 ジョブズは日本の禅に大きな影響を受けていた。「スティーブは禅と深くかかわり、大きな影響を受けています。ぎりぎりまでそぎ落としてミニマリスト的な美を追究するのも、厳しく絞り込んでゆく集中力も、皆、禅から来るものなのです。抽象的思考や論理的分析よりも直感的な理解や意識のほうが重要だと、このころ(大学時代)気づいたんだ」とある。いかにいらないものを取り除きシンプルにしていくジョブズの作品を創り上げる手法は、一種の『断捨離』的な要素もあるようだ。本人は物欲主義ではないともいっているようだ。

 ものを創り上げるには、「着想と創造のあいだには闇がある。新しいアイデアだけでイノベーションが生まれるわけではない。そのアイデアを現実とする行為も等しく重要なのだ。」とある。アイデアを発想することは多くの人ができることだけれども、それを形作るためには多々ある問題を強力なブルトーザーで払いのけていかないと完成しない。それは人の心を傷つけるかもしれないほど、それをできる人はなかなかいないのだと思う。

 ジョブズが30歳の時、雑誌のインタビューで答えた内容。「アーティストとして、創造的な人生を送りたいと思うなら、あまり過去をふり返るのはよくありません。自分がしてきたこと、自分という人間をそのまま受け入れ、それを捨て去らなければならないのです。
 自分のイメージを強化する外界の圧力が強くなればなるほど、アーティストであり続けることは困難になります。だから、多くのアーティストが『さようなら。もう行かなきゃ、気が狂いそうだからもうやめるわ』と言ってはどこかに隠れてしまうのです。しばらくしたら、また現れて少し違う姿を見せてくれるかもしれませんけど」 このときジョブズは芸術家として苦悩していた。

 もうひとつ、僕が気にとめた文章は、ピクサーでの『トイ・ストーリー』を作成するときの作品の根底にある思想。「その背景には、製品には本質、つまり、その製品が作られた目的があるという。ラセター(監督)とジョブズが持つ信念があった。モノが感情を持つなら、その本質を全うしたいという想いが基本にあるはずだ。」 この’おもちゃ’に対する気持ちが、あのとても感動的なトイ・ストーリーの中に脈々と感じられると僕は思う。

 この本を読んで、ジョブズが創り上げた輝かしい作品、マッキントッシュ、iMac、iPod、iPhone 、iPad等々の裏には、ドロドロした世界があったことがよくわかる。時間が経過し、歴史が圧縮されていくとジョブズの功績はますます大きくなり、裏の’ダークサイド’の面は縮小されていくのであろう。つまり人類の様々な過去のすばらしい歴史の裏には、知り得ない世界が存在していることを、この本は教えてくれたが気するのであった。

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